底辺の見方、上からの見方

日本社会の底辺層のモノの見方、ちょっと上の層のモノの見方のお勉強

爆笑問題のネタがNHKでボツにされた件でのNHK会長の会見について(上から)

NHK会長の籾井勝人氏は、表題の件、一般論として「個人名を上げて笑いのネタにするのは、ちょっと品がない」と爆笑問題側の品性問題にした。さら に、「規制する、しないや圧力でなく、しゃべる人の品性や常識があってしかるべき」と追撃。そして、「NHKは公共放送で、視聴者はいろいろな方がいる。 NHKに出る時は、慎むというのではなく、やめた方がいいのでは」と見解を示し、政治的風刺については「その時々によって異なる」とした。また、今回の件 は「新聞で(騒動を)初めて知った」とし、関与を否定した。

 

素晴らしい。NHKに興味は無かったのだが、上記の文章だけでもこの籾井なる人物がサラリーマン社会で確実にのし上がり、そして今ほとんどの会社ではびこっている、仕事をしないが上からは好かれて出世する上司の典型的パターンである事がわかる。そのテクニックとは。

責任のある立場なのに、責任は負わない

 ホワイトカラーはなぜ出世していくと作業実務が減るのに給与が高くなるのか。それは責任が増えるからだ。なので実務は作業から承認、ジャッジへと変わっていく。部下の問題は上司になるわけだから、部下が5名の上司と部下が1000人の上司では普通の会社では原則給与は後者が高くなる。これが役員ともなると、経営責任も加わるので更に給与は上がる。

しかし、実際は「うまくいったら自分のおかげ。失敗したら部下のせい」という人の方が日本では出世しやすい。そういった人間の特徴として、失敗した場合、部下のせいに出来るようにいかに責任を負わないか、という処世術。 今回の場合で言えば、

・会社の会見での役員の発言は会社代表だ。失言をすると会社にダメージがある。なので、会社の為を考えると「個人的には・・・」と責任を自分個人に負わせる事がある。しかし、籾井会長は「一般論として」と前置き。会社にも自分にも責任はなく、「一般論」と視聴者のせいにしたのだ。そして締めに再度「視聴者には色々な方がいる」と更に視聴者のせいにしたのだ。これによって、もしこの会見の発言が問題になっても、「NHKとしても個人(籾井)としても何も公式見解を示していない。あくまでも視聴者には風刺ネタを不快に思う人がいる、とう事を述べさせていただいただけ」と逃げる事ができる。事実、100%受け入れられる風刺ネタなどこの世には存在しないので、逃げ口上としては完璧だ。もちろん、すべての責任がある立場での役員報酬であるはずなのに、「新聞で知った」ととぼけるのも重要。ここで大事なのは「新聞で」という所。これが当たり前の企業のように「部下から(今回の騒動の)報告を聞いて」となると、その時知ったとしても、会社としての管理責任を問われる可能性がある。「新聞で」と言っておけば、

・社内ではまったく報告が無く、自分は対応しようが無かった。だから、ボクチンには責任はありません!

と言えるし、

・部下が勝手にやった事、というだけでなく、事前にホウレンソウをしなかった今回の件の責任者はサラリーマンとして仕事が出来ない人間。そんな組織人として仕事の出来ない人間の為に価値ある私が引き下ろされるのはおかしいですよね?

とも言えるのだ。

問題をすり替えておく

 ソニー・ピクチャーズの北朝鮮を題材にした映画「ザ・インタビュー」でさえ、見た人間が100%面白いと思うわけではない。この映画の問題は内容ではなく、言論の自由が圧力によって阻害された、という事なのだ。今回の問題もそこ。爆笑問題のネタの内容がどうであれ、それを阻害した事が問題なのだ。しかし、上記の答弁は「個人名を上げて批判するのは・・・」と冒頭で言う事で、今回の問題をネタの内容の問題にすり替る事に成功している。この一線で、その後の発言内容を、(一部の)視聴者の声にも誠実に対応する公共放送、(一部の)視聴者が不快に思うネタをする芸人、という対立構造にする事ができ、「言論の自由への圧力」という問題から目をそらす事が出来たわけだ。実際、ネットでは爆笑問題を面白おかしく批判する人も出てきている。

平行線論法を使う

 頭のいい記者もいて、さすがに食い下がる。政治風刺についてNHKとしては今後も同様なやり方で放送しないのか、と問題を「言論の自由への圧力」へ引き戻したのだ。しかし、冒頭発言で問題をすり替えておいた籾井会長。がぶり4つに組み合う必要など無い。しかし、はぐらかすと更に追求される。最適な答えは・・・。

「その時々によって異なる」

ケース・バイ・ケース。すべての結果を内包し、どの問題も解決出来る魔法の言葉。この言葉によって

言論の自由に対する圧力は無い

・その前提では今回のケースは爆笑問題側のネタの問題

とすり替える事に成功したのだ。頭のいい記者なら、この後どんな事を質問しても上記の問題にすり替えられて、平行線に終わる事が理解出来た事だろう。

 

素晴らしい。完璧である。これこそ日本企業を代表する上司の典型だ。それもそうだ。籾井氏は財閥企業である三井物産で副社長まで上りつめ、その後日本ユニシスの社長に就任、石原進経営委員の推薦を受け、NHK経営委員会で第21代会長に選出。日本バトミントン協会副会長も努め、職務怠慢で解任されるまではアジアバトミントン連盟会長も努めていた人物。もう、最高である。色気を出してアジア全体のバトミントン連盟は会長になってしまったが、日本では副会長、という、いい感じの立場にいるのも、まさにジャパニーズサラリーマン。多分、今の日本でサラリーマンで成功する、とは大概こういう生き方なのだろう。

 

これらのテクニックの他に様々な手法があるのだが、それはまた次のお話。

あ、ちなみに私がサラリーマン時代はこういったテクニックは一切使わず、結果のみで勝負するリーダーだったので、社内テクニック重視の上司同僚から嫌われまくっていました(笑)。